この記事は約7分で読めます。
本文は約3969文字です
「成功率90%」の衝撃。でも、日本で同じことはできるのか? ― 海外の退屈ビジネスを徹底フィルタリング

YouTubeで「億万長者を続々生み出すつまらないビジネス6選」という動画が話題になっている。話しているのはデビッドというアメリカの起業家で、エアフィルター会社を経営しながら、毎日何百もの「退屈なビジネス」に投資しているらしい。
内容をざっくりまとめると、こんな感じだ。
資産活用型(ATM、コインランドリー、設備レンタル)とサービス型(HVAC、緊急レッカー、廃棄物管理)。この6つをやれば成功率90%以上で億万長者になれる、と。
アメリカの話だから、きっとその通りなんだろう。でもここは日本だ。法律も市場も文化も違う。
この記事では、あえて「日本で同じことが本当にできるのか」という視点でフィルタリングしてみる。結論から言うと、大半は「使えない」か「めちゃくちゃ難しい」だった。でも逆に、その中から「これはいける」というビジネスも見つかった。
元動画のおさらい
動画では、まずビジネスを2種類に分けている。
一つは資産活用型。機械や不動産を所有して稼ぐモデルで、いわゆるパッシブインカムに近い。ATM、コインランドリー、設備レンタルが該当する。
もう一つはサービス型。自分のスキルや労働力を提供するモデルで、初期費用が少なく、大きく育てやすい。HVAC(空調設備のメンテナンス)、緊急レッカー、ゴミ収集がこれにあたる。
それぞれの成功事例として、元警察官がATMを30台設置して警察官を辞めた話や、中学も卒業してない田舎者がレッカーサービスで町で一番の金持ちになった話などが出てくる。
本題:6つのビジネスを「日本フィルター」にかける
| ビジネス | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| ATM | ❌ 使えない | 貸金業法、市場独占 |
| コインランドリー | ⚠️ ほぼ使えない | 初期投資1,500万円〜、大手支配 |
| 設備レンタル | ❌ 使えない | 大手寡占、個人参入困難 |
| HVAC(空調サービス) | ✅ 使える | エアコンクリーニングとして需要大 |
| 緊急レッカー | ⚠️ 条件付き | 参入障壁高いがニッチは存在 |
| 廃棄物管理 | ⚠️ 条件付き | 一般ゴミは無理、不用品回収・産廃ニッチなら可能 |
ATMビジネス → 判定:❌ 使えない
海外の事例では、ネイルサロンや小さな店舗に個人がATMを設置して、手数料収入で稼ぐ。1台2,100ドル(約30万円)から始められるらしい。
日本でこれをやろうとすると、まず貸金業法という壁にぶつかる。ATMを設置して手数料を取る行為は、事実上、貸金業の登録が必要になる。しかも手数料の上限は法律で厳しく決められていて、1回110円程度。アメリカのように数ドル取ることはできない。
さらに、日本のATM市場は銀行とコンビニがほぼ独占している。個人が入り込む余地はほとんどない。
このビジネスはきっぱり諦めた方がいい。
コインランドリー → 判定:⚠️ ほぼ使えない
動画では「成功率95%」という驚異的な数字が出ている。アメリカでは確かに有望なビジネスなんだろう。
日本でもコインランドリーは存在する。ただ、個人で始めるには初期投資が1,500万円から4,000万円かかる。良い立地を見つけるのも至難の技だ。既に大手チェーンが各地に展開していて、競争も激しい。
例えば「i・moランドリーグループ」のようなフランチャイズに入れば、ある程度のサポートは受けられる。それでも自己資金が数千万円ないと話にならない。
「借金してまでやるべきか」と問われれば、答えはノーだ。
設備レンタル → 判定:❌ 使えない
動画では、デビッド自身がエアコンプレッサーを1日500ドルで借りた体験から「これはチャンス」と語っている。
日本にはレンタルのニッケン、カナモト、アクティオといった巨大プレイヤーがいる。彼らは全国に拠点を持ち、あらゆる設備を在庫している。個人がその隙間に入るのは非常に難しい。
もちろん、超ニッチな機器(例えば特殊な撮影機材やドローン)なら可能性はある。でもそれはもはや「設備レンタル」というより、別のビジネスに近い。
個人にはハードルが高すぎる。
HVAC(空調サービス) → 判定:✅ 使える
アメリカのHVACは暖房・空調・換気の総合サービスだが、日本で一番近いのは「エアコンクリーニング」や「業務用空調メンテナンス」だ。
ここはチャンスがある。
初期投資は50万円から100万円程度で始められる。資格(冷凍空調技士や電気工事士)が必要になるが、職業訓練校で学べる。「おそうじ革命」や「おそうじ本舗」のようなフランチャイズに加盟すれば、研修を受けながらスタートできる。
実際に、個人でエアコンクリーニングを始めて、口コミで広げ、年間1000万円以上売り上げている人は少なくない。飲食店の換気扇清掃など、法人契約を取れればさらに安定する。
日本で一番現実的な選択肢の一つだ。
緊急レッカー → 判定:⚠️ 条件付き
アメリカでは、大型トラック専用のレッカーサービスで値段をほぼ決められるという成功例がある。
日本でも、高速道路での大型車両故障はJAFでも対応できないケースがあり、専門業者に依頼が来る。ヤマグチレッカーのように、75トン対応の大型レッカー車を独自開発している会社もある。
ただ、個人がこれをやるのは難しい。レッカー車は1台1000万円以上するし、「牽引業」の許可も必要だ。ドライバーの確保も大変。
どうしてもやりたいなら、まずは一般のロードサービス(JAFの下請けのような形)から始めて、徐々に大型車両を導入するのが現実的だろう。
廃棄物管理 → 判定:⚠️ 条件付き
動画では、カナダのホッケー選手がゴミ収集会社を買収しまくって数十億ドル企業に育てた話が出てくる。
日本の場合、一般家庭のゴミ収集は自治体の独占が基本なので、個人が参入するのはほぼ無理。でも、産業廃棄物や不用品回収というニッチなら可能性がある。
例えば、ECOMMITは郵便局と連携した衣類回収ボックスを設置している。amuという会社は廃漁網をアップサイクルして布を製造している。不用品回収業者の中には、倒産した玩具店の清掃で回収した復刻玩具をオークションで450万円の追加収入を得たケースもある。
いきなり大手には勝てないが、「この廃棄物に特化する」という戦略なら、個人でも食い込める可能性はある。
日本で個人が現実的に狙えるビジネス
ここまでの結果を整理する。
- 使えないもの:ATM、設備レンタル。これは諦めた方がいい。
- ほぼ使えない:コインランドリー。資金が数千万円あれば別だが。
- 条件付き:緊急レッカー、廃棄物管理。ニッチを突けば可能性はあるが、参入障壁は高い。
そして、唯一「使える」と判断できるのがHVAC、つまりエアコンクリーニングや空調メンテナンスのサービスだ。
ただし、これは労働集約型のビジネスだ。自分で動いて稼ぐ。いわゆる「時間を売る」ビジネスから始めることになる。
ここで重要なのは、労働集約型で終わるか、そこから脱却するか です。
そこから従業員を雇い、システム化し、フランチャイズ化する。その道のりは長い。でも、自己資金数十万円から始められて、需要が確実にある。失敗しても致命傷にならないという意味で、最も「現実的な選択肢」と言える。
| 段階 | 状態 | 年収イメージ |
|---|---|---|
| 1. 個人事業主 | 自分一人で働く。時間=収入。 | 300〜600万円 |
| 2. 従業員を雇う | 他人の労働力を買う。利益は差額。 | 800〜2000万円 |
| 3. システム化・FC化 | 仕組みを売る。労働から解放される。 | 数千万〜億単位 |
それでも元動画から学べること
具体例は日本にそのまま当てはまらなくても、動画の核心的なメッセージは価値がある。
一つは「地味なビジネスを軽視するな」ということ。
華やかなスタートアップばかり注目されるけど、実際に安定して稼げるのは、誰もが毎日必要とする退屈なサービスだったりする。
二つ目は「小さく始めて検証する」という方法論。
デビッドはエアフィルター工場を建てる前に、ドロップシッピングで需要を確認した。リスクをほぼゼロにしてから大きな投資をしたのだ。これは日本でも同じ。
三つ目は「超ローカルに集中する」という戦略。
ドミノピザは最初、一つの大学街だけをターゲットにした。そこでモデルを完成させてから拡大した。地域密着型のビジネスでは、これが非常に効果的だ。
まとめ
海外の成功事例をそのまま信じて飛びつくのは危ない。特に、法律や市場構造がまったく違う日本ではなおさらだ。
この記事では6つのうち5つが「そのままでは使えない」という結論になった。これはこれで価値のある情報だ。「やらない理由」を知ることは、「やるべきこと」を見極めることと同じくらい大事だから。
もしあなたが「退屈なビジネス」を探しているなら、まずは自己資金の範囲で始められるサービス型から検討してみてほしい。エアコンクリーニング、ハウスクリーニング、不用品回収。どれも地味だけど、需要は確実にある。
借金してまで参入すべきビジネスは、そうそうない。それよりも「失敗しても死なない」規模で始めて、そこから育てていく。その方が現実的だし、長続きする。
